経済をわかりやすく正しく理解するためのブログ

内容はブログ名そのまんま! 日常の経済ニュースを専門的、学問的な見地からわかりやすく読み解きます。

トランプは天才か? -レーガノミクスと米中貿易戦争を考える-

みなさん、こんにちは。

昨今テレビを点ければ、見ない日は無いほどメディアから総攻撃を受けているトランプ大統領

しかし、一代で不動産王になり、泡沫候補と呼ばれた大統領選で一気に大統領にまで上り詰めた彼のこれまでの実績も、決して無視できないものでしょう。

また彼は自分のテレビ番組に出演し続けたとというエンターテイナーの側面もあり、彼の幼稚とも取れる発言に関しても、その言葉通り受け取るのは正しくないという見方もあります。

今日は彼は実際は何を考えているのかを、大統領当選から2年が経ち中間選挙も迫る中で、総括も込めて、彼の行動から考えていきたいと思います。

 

トランプとレーガン

まず、彼が就任以降最も力を入れているのは、なんといっても経済でしょう。彼の支持率が何とか一定レベルを保てているのは、株価が史上最高値を更新し、失業率が下がり続けているからと言われています。失業率は前政権時代の金融政策の影響が大きいでしょうが、株価がこれほど上がっているのはなぜでしょうか。それは、やはり10年で1.5兆ドル(160兆円)という莫大な法人税減税と、大幅な軍事費拡大をしたからでしょう。実際、株価の推移を見ると、この影響がとても大きかったことがわかります。

この減税と軍事費拡大と聞くとレーガノミクスを思い出す方も多いと思います。共和党支持者の間では最も支持されているといわれるレーガン大統領も、同様の政策を行い、経済を成長させ、軍事費を拡大しました。ここで、気づくのは、レーガンとトランプが経歴も似ている、ということです。レーガンも、俳優から大統領になった非ワシントンの政治家で、さんざんにメディアから叩かれながらも、経済を回復させ、強硬な外交で強いアメリカというイメージをつけることに成功しました。トランプもエンタメ業界で有名になり、非ワシントンから大統領になりました。

ところが実は、レーガン政権は、エコノミストの間ではあまり評価が高くありません。というのも、レーガノミクスの結果、アメリカは巨大な財政赤字貿易赤字に苦しむことになるからです。これは双子の赤字、と呼ばれ、アメリ経済に暗い影を落としました。

このような経験から、トランプの今の政策もレーガノミクスのように長くは続かず、いずれアメリカは双子の赤字に苦しむことになる、という主張は今の経済界に多くみられます(竹中平蔵氏はじめ)。しかし、実は昨今のニュースから、トランプはこれを回避するために、計画的に、着実に政策を実行していると見ることもできるのです。

 

双子の赤字と米中貿易戦争

まず、貿易赤字について。トランプは選挙中から今まで、日本や中国、メキシコなどとの貿易赤字を批判しています。経済学では、貿易赤字を減らす、という重商主義的政策は時代遅れで、現代、特に変動相場制の下では重要ではないことは、とっくに明らかです。トランプも経済学では最も有名な大学の一つ、ペンシルベニア大学のウォートン校を出ていますし、周りのブレーンもそれを彼に言っているはずなので、彼がそれを知らないはずはありません。にもかかわらずそれを言い続け、政治的なリソースをかけ続けるのは、支持者へのアピールだけでなく、レーガノミクスの結果が背後にあるからではないでしょうか。

次に、財政赤字について。減税と軍事費拡大によって、財政が悪化していますが、実はこれについての対応策を米中貿易戦争に見ることができると思っています。というのも、ご存知の通り、アメリカは中国との貿易赤字を批判し、米中貿易戦争に突入しています。トランプは中国の5000億ドルの製品に25%の関税をかけることを決めています。しかし、よく考えるとこの関税は、当然政府の収入になります。その額は5000×25%で1250億ドル(12.5兆円)。莫大な金額になります。そしてこれは、大規模な法人税減税(1年で16兆円)と近い額なのです。つまり、実はこの貿易戦争は貿易赤字の解消という面だけでなく、財政赤字も改善させることができるのです。トランプからすると、貿易赤字は解消し、財政赤字も解消し、雇用も改善し、中国の経済も弱体化させることができるので、1石4鳥以上のものがあるわけです。

 

北朝鮮問題で見えた、計画的な外交戦略

ここまで見ると、これはたまたまなんじゃないか、という思われる方もいるかもしれません。しかし、トランプが計画的に政策を発動してきた場面もいくつか見られます。例えば北朝鮮問題の場面でです。米朝首脳会談開催以前は、アメリカは北朝鮮に対する国際的な圧力や、米朝首脳会談の開催に中国との協力が必要不可欠でした。そこで、中国の習近平を良いリーダーと形容し、良好な関係を作りました。国内では、中国脅威論が溢れているにも関わらずです。しかし、圧力が効き始め、米朝の実務者の接触が可能になると、アメリカは中国の不誠実な協力を理由に中国を非難し始めます。そして、米朝首脳会談を行い、北朝鮮と良好な関係を作ると、その4日後にアメリカは中国の製品1102品目に対して関税をかけることを決定し、ここから米中の対立がはじまることになるのです。つまり、北朝鮮問題の一応の解決を行ってから、米中貿易戦争に突入した、という意味で、極めて計画的な外交を行ったのです。

 

おわりに

一連の流れを見ると、実はトランプは極めて戦術的、計画的に政策を実行しているのかもしれません。それを証明するのはもちろん歴史のみですが、メディアが流すトランプの一面的な見方に対して、私たちは少し懐疑的になる必要があるのではないか、と思う今日この頃なわけです。